ジェフ・ベゾス

共感することが苦手なベゾス

 Amazonの創業者であるジェフ・ベゾスは、いまや世界一のビリオネアだが、その生い立ちは波乱に満ちている。実の父はサーカス団員で、一輪車乗りが得意だった。当時16歳だった女性と付き合う仲になり、妊娠して生まれたのがベゾスだった。

 父の仕事は不安定で、家庭を持つのが早すぎた夫婦は結局離婚し、母親は別の男性と再婚。ベゾスはその男性の養子として育てられることとなった。

 養父はキューバからの政治難民だったが、奨学金とアルバイトで大学も出て、大手の石油会社に勤めはじめていた。

 何かに熱中するとほかのことが目に入らなくなる傾向は、幼稚園児だったころから顕著だったようで、公園の池に浮かんだ足こぎボートに乗った時も、他の子らが親に手を振っていたのに、ベゾスは、ボートが動く仕組みを知ろうと夢中になり、母親の方など一つも見ることはなかった。何かをやり出すと、やめさせて次のことに切り替えさせるのが至難の業で、仕方なく幼稚園の先生は、椅子ごと彼を移動させていたという。このようにして、彼は宇宙飛行士と発明家を夢見るメカ好きの少年に育っていった。

 ジェフ少年はあるとき祖母を泣かせてしまったことがあった。

 喫煙による死亡率の上昇に警鐘を鳴らす公共広告を見ていたいた彼は、自分で計算を始め、喫煙している祖母の寿命が九年短くなるという答えを導き出し、それを祖母に告げてしまう。祖母は泣き出してしまったが、それは自分自身が肺ガンを患い、数年間も闘病中だったのだ。

 彼の計算は正しかったかもしれないが、それが祖母を傷つけることになるとは思っていないのだ。

ジェフの悪意のない失言に対し祖父は優しく嗜めたそうで「ジェフ。賢くあるよりも優しくある方が難しいと、いつかわかる日が来るよ」と伝えた。

 高校では科学部とチェス部に籍を置き、さまざまな賞を獲得した。負けず嫌いなベゾスは、卒業生総代になるために首席の成績を修めると公言し、その通り実行した。

大学に進むと、電気工学とコンピューターサイエンスで学位を取得。そして彼が卒業後に就職先として選んだのは、株式投資の世界だった。数学とコンピューターを駆使する金融工学の手法でウォール・ストリートを席巻する先駆けとなった投資会社で、ベゾスは頭角を現していく。

 このようなベゾスの経歴には、彼のシステムへのこだわりと嗜好がある。プログラムに従って、コンピュータが自動的に取引を行っていく手法は、情緒的な関与を一切排除し、定められたルールに従って淡々と取引を行なっていくものだった。極めて論理的で、どのようなことでも体系的に(システマティックに)対処する彼のこだわりが見られる。さらに、女性との出会いにさえ、「ウーマンフロー」(投資案件と出会う機会を表すディールフローに対して、女性との出会いの機会をそう呼んだ)を増やすという方法を実践していた。

このようなエピソードから分かる通り、システムで考えることを好み、物事を一つのルールや法則で理解したがる傾向があり、他人に共感することが極端に苦手な人であった。