イーロン・マスク

正しいかどうかを優先させるイーロン・マスク

 電気自動車で世界をリードするテスラ社のみならず、夢物語と思われていた民間での宇宙事業に突破口を開いたスペースX社を創設し、一大企業に育て上げた型破りの人物だ。

 イーロン。マスクは南アフリカ共和国の首都プレトリアで生まれた。父親は電気や機械のエンジニア、母親は栄養士だったが、学校時代には理科や数学が得意だったそう。両親ともに理系の能力に恵まれていた。

 少年イーロンは、好奇心旺盛で、活発な子だったが、ときどき自分の世界に入ると、呼びかけてもまったく反応がなくなることがあった。両親としては心配して、耳鼻科の医者に診てもらったこともあるが、別に聴力に異常は見つからなかった。

 こうしたエピソードは、自閉的なんじつにはない傾向を持つ子どもにときに見られるもので、内的世界に没入し、自分の世界に過集中するため、外界からの声や物音がまったく耳に入らなくなってしまうのである。後にイーロンはインタビューでこのように答えている。「5〜6歳のころ、外界と断絶して一つのことに神経を集中させる術を身につけた」「脳のなかには普通ならば、目から入ってきた視覚情報の処理にしか使われない部分があるが、その部分が思考プロセスに使われるような感じかな。とにかく、視覚情報を処理する機能の大部分がものごとを思考する過程に使われていた。いまはいろいろなことに注意を払わなければならない身なので、以前ほどではなくなったが、子どもの時代は頻繁にハマっていた」

 イーロン少年は白昼夢に耽りながら、視覚統合の能力をフル活用するようになっていたのだ。視覚統合は現実にはないものをイメージし、思考を展開する能力でもある。イーロンはこうも述べている。

「イメージとか数字の場合は、相互の関係や数学的な関連性を把握・処理できる。加速度とか運動量とか運動エネルギーなんかが物体にどういう影響を与えるのか、鮮明に浮かんでくるんだ」

 彼はイメージによって思考する技を、子どものころから身につけていた。

 そんなイーロンは、ただ空想に耽っているだけではなかった。彼が子どものころから熱中したもう一つのことは、読書だった。いつも片手に本を持っていたという。

 弟の証言によると、一日十時間以上読書に没頭することも珍しくなかったし、週末には必ず2冊の本を1日で読破していたという。学校の図書館の本を読み尽くして、読むものがなくなったため、ブリタニカ百科事典を読み耽った。小学生の間に、二つのけシリーズの百科事典を読破していたイーロンは「歩く百科事典」と言われるほどの物知り少年になっていた。

 一方、イーロン少年にも苦手なことがあった。それは社会性の面運動だった。

 イーロン少年は相手がどう思うかよりも、正しいかどうかを優先するところがあり、間違っていることを指摘せずにはいられなかった。そのため、相手を苛立たせ、鬱陶しがられることも多かった。

 友達はおらず、いつもひとりぼっちでいじめを受けていたという。

 両親の離婚により母や、祖母、父と暮らすことになるが、「いいことが全くなかったわけではないが、幸せではなかった。惨めというのかな」

 この満たされない思いを、宇宙に対する野心へと昇華させたマスクは、大事業を着々と進めていったのある。